競走馬が引退後に乗馬になるということ
-競走馬のセカンドキャリア-
私たち人間にとっても「転職」は大変だ。新しい仕事を見つけることも大変だし、新しい職場や内容に慣れるまでは苦労も多い。馬の転職(セカンドキャリア)も同様だろう。
皆さんは日本において「馬の仕事」といえば何を想像するだろう?古来は乗り物としての馬や農耕馬だった。しかし、現代ではレジャーあるいはスポーツが、馬たちの活躍する世界だ。なかでも圧倒的に活躍する場は、間違いなく競馬だ。
競馬はとてもシンプル。競馬は迫力があるし、馴染みがある。そして、楽しんだうえにギャンブル性もある。レジャーとして確立されているし、それに関わりながら仕事をする人も多くいる。しかし、華やかな競馬の世界で活躍できる馬は少ない。
ましてや、GIレースをいくつも勝って引退後に種牡馬として「出世」できる馬はごくわずか。血統が重視され、ブラッドスポーツと呼ばれる競馬の世界において種牡馬になることは究極の出世だ。しかし、未勝利馬はもちろんのこと、レースをいくつか勝ったくらいでは種牡馬への道は開かない。さらに、競走馬として能力がないと判断された馬は競馬場で走ることさえできない馬もいる。馬旅倶楽部で支援しているゲヴュルツもそのうちの一頭だ。
-転職は簡単じゃない-
そこで「転職(セカンドキャリア)」がある。主な転職プランは「乗用馬」だ。乗馬クラブなどでお客さんを乗せるだけなら、特別速く走る必要はない。どんな馬にもできそうな仕事に見えるが実際は全く違う。
競走馬に求められるのは勝つこと。数センチでも構わないから他の馬より速く走り、先にゴールを駆け抜けることが全てだ。持って生まれた身体能力に加え「闘争心」がとても重要になる。しかし、乗馬の世界ではその「闘争心」こそが邪魔をしてしまう。
育成牧場やトレーニングセンターで、彼らは「競走馬」になるためのトレーニングをひたすら重ねる。トレーニングを重ねて「闘争心」を鍛えるのだ。それは当然のことだし、否定すべきことではない。
変わって乗用馬としての仕事、特に初心者を乗せる馬に求められるのは、「安全」に乗れるということ。勝手に走り出したりせず、物音に動じることなく、安心安全に騎乗できることが重要になる。乗る人は、騎手や調教師、調教助手のようにプロフェッショナルではない。したがって競走馬時代とは正反対のことを要求されるのだ。
引退競走馬にとってこれはかなりハードルが高い。馬は学習能力が高い動物と言われ、一度覚えたことはなかなか忘れないのだ。「速く走れ!勝て!先にゴールを駆けろ!」と教えられ、闘争心を鍛えられてきた馬に、「勝手に走らないでね。ゆっくり歩いてね。落ち着いていこうよ。」と言われてもそう簡単に受け入れられるものではないのである。
今後の取り組み
だからこそ今、サラブレッドのリトレーニングが注目されている。引退競走馬を安全な「乗馬」へと転職させるための訓練だ。リトレーニングは誰でも出来る簡単なものではない。中途半端なリトレーニングは見せかけのもので、安全安心な乗用馬にはならないだろう。しかし、チャレンジする価値はある。まさに「人」にしかできない、間違いなくこれから求められる技術だ。
P.S.
馬旅倶楽部では、競走馬になれなかったゲヴュルツを支援し、馬術大会の出場を目指しています。競馬が好きな方、馬が好きな方、動物が好きな方などに馬旅倶楽部にご参加いただければ嬉しく思います。ゲヴュルツの近況や成長の過程は写真や動画とともに配信しています。
記事:主宰(日本馬術連盟認定指導員資格者)
運営:ホースパートナーズ